
避難所では、誰にどんな支援物資が渡るのか。
その「線引き」は、いつ、誰が決めているのでしょうか?
東日本大震災の避難所で、こんな声がありました。
「運営の人と親しかった人にだけ、良い物資が届いていた」
「無口な女性は、下着すら受け取れなかった」
もちろん、誰かが意図的に“いじめた”わけではありません。
でも、物資が足りず、混乱した現場では、「声の大きさ」や「顔の知られているか」が、配給に影響していた現実があります。
このような証言は、今も多くの避難所経験者が語っています。
公平を保つのが難しい非常時に、なぜ“見えない線引き”が生まれてしまうのか…。
その背景を探っていきます。
支援物資を配るのは誰が決めるのか?
被災直後の避難所では、物資の数が限られていることがほとんどです。
「とりあえず持ってきた支援物資」を、どう配るか。
その仕組みが整うまでには、時間も人手も足りません。
そんな中で始まるのが、「なんとなく」の分配です。
名前を記録せず、順番もあいまいなまま、「必要そうな人に渡す」という判断が、現場任せで行われることがあります。
そしてそこには、どうしても「見知った顔」「話しやすい相手」が優先されやすくなる傾向があります。
顔なじみを優先
「顔なじみだから、つい多めに渡してしまった」
「遠慮がちな人には、最後まで声がかけられなかった」
そんな、ちょっとしたことの積み重ねが、気づけば物資を「受け取れる人」と「受け取れない人」を生んでしまうのです。
好意のある異性を優先
また、ある女性は「配給担当の男性に好意を持たれていたことで、こっそり優先的に物資をもらえた」という証言もしています。
一方で、それを見て気まずく感じた他の女性は、「余計な誤解を招くのが怖い」と支援を遠慮するようになったといいます。
「優しさ」が差別に、「気遣い」が沈黙につながっていく。
それが、混乱の中で生まれた「見えない優先順位」でした。
実際にあった「優遇配給」の証言
支援物資を采配を誰が決めるのか、調べてみました。
東日本大震災
◆【1】東日本大震災(2011年)
小規模な避難所では、「仲の良い人に多めに配る」「声をかけた人だけに渡す」といった主観的な配布が指摘されています。さらに、物資配布を担当する男性運営者が特定の女性に優しく接し、受け取らざるを得ない雰囲気を作っていた、という声も聞かれました。
※参考:東日本大震災に関する各種調査報告書や、兵庫県立大学・立命館大学による「避難所運営とジェンダー課題」報告など
(東日本大震災に)
🔸参考:東日本大震災に伴う「震災と女性」に関する調査報告書
🔸参考:災害時の救援物資にかかる課題の調査・議論と対策の検討
阪神・淡路大震災
◆【2】阪神・淡路大震災(1995年)
初期の避難所運営は高齢男性が中心で、物資の配分も彼らの裁量に頼るケースが多くありました。その結果、「女性が意見を言いにくい」「機嫌を取ることで優遇される」といった空気が生まれていたとされます。
🔸参考:内閣府防災情報のページ
🔸参考:「阪神淡路大震災に学ぶ避難所運営の課題とジェンダー配慮」(女性と災害ネットワーク)
◆【3】熊本地震(2016年)
ある報道では、避難所の“身内・顔見知り”で物資を回していたという被災者の声が紹介され、「支援が特定の人に偏っていた」との指摘もなされています。
🔸参考:災害対応力を強化する女性の視点
運営も被災者だったことの難しさ
避難所の運営を担う人たちは、特別な存在ではありません。
自治体職員や地域の自治会長、学校の先生、民生委員など…。
その多くが、自身も家を失い、家族を心配しながら避難してきた被災者です。
緊急事態に仕組みがない中での判断の難しさ
混乱する現場で、
「物資をどう配るか」
「誰が困っているかをどう把握するか」
そうした判断を、十分な情報も仕組みもないまま、背負うことになります。
余裕がないから目についた人が優先される
そんな状況では、どうしても「目に入る人」「声をかけてきた人」への対応が先になってしまいます。
無意識のうちに、「知っている人」に頼り、「見知らぬ人」を後回しにしてしまう。
それは“権力”ではなく、“余裕のなさ”から生まれる現象でした。
女性スタッフの少なさからくる問題
また、運営側に女性が少ない場合、女性特有の物資(下着、生理用品など)の配布も滞りやすくなります。
誰にどう渡せばいいか判断がつかず、「そのまま箱ごと放置されていた」という事例も報告されています。
公平に、丁寧に、全員に…。
そう願っていても、それができる体制や人員が、避難所には圧倒的に足りていないのです。
不公平は生き残り戦の一部?
避難所で起きる「物資の不公平」。
それは、ただの運営ミスや気配りの差では語れない、「生きるための行動」が背景にある場合もあります。
ある女性は言いました。
「もらえなかったら、次はないかもしれない。だから、何度も並んだ」
ある男性は、
「怒鳴った方が得すると知ってしまったから、もう黙っていられなかった」と。
非常時の防衛反応
非常時の中で、人は本来の自分ではいられなくなります。
ルールを破る人、横入りする人、強く主張する人…。
それらは一見【ズルい】ように見えても、本人たちにとっては「生き残るための防衛反応」だったのかもしれません。
支援から取り残された人たち
一方で、そんな行動ができなかった人たちがいます。
小さな子ども、遠慮がちな高齢者、気を遣う女性たち…。
声を上げられないまま、支援の輪から取り残されていきました。
「自分さえ黙っていればいい」
「他人を責めるより、自分が我慢しよう」
そんな思いが、やがて心と体の限界を招いてしまうこともあります。
不公平があったことが問題なのではありません。
「声を上げにくい人ほど、不利になる構造」が放置されていたことが、支援の本質をゆがめていたのです。
災害という非常時の中での支援とは
非常時には、誰もが【余裕のない状態】になります。
だからこそ、優しさや気配りだけに頼った支援の仕組みは限界があります。
声を上げられる人が得をし、遠慮する人が我慢を重ねる。
そんな状態が続けば、やがて【支援】は【分断】へと変わってしまいます。
まとめ;この記事で伝えたかったこと
この記事で伝えたかったのは、「誰かがズルをしたから」「運営が悪かったから」という単純な話ではありません。
被災した人も、支援する人も、みんなが不安の中で精一杯動いていたという事実。
そして、そこで起きた【不公平】の存在に、今こそ目を向ける必要があるということです。
今後、同じような避難生活が起こるかもしれない。
そんなとき、少しでも誰かの「言えない」「届かない」が減るように。
この記事が、「もし自分がその場にいたらどうするか?」を考えるきっかけになれば幸いです。
📺 このストーリーをショート動画で見る
▼【YouTubeショートはこちら】
👉(https://www.youtube.com/@prepare-sonae)
📚 関連記事はこちらもおすすめ
・支援物資が拒否された理由とは?避難所「平等」に潜む矛盾
・「備えていたのに没収された」避難所で家族が直面した現実
・「なんで、あんな人に任せたんだよ」 避難所に現れた偽ボランティアの正体とは?
🧰 “声を上げにくい人”のために、できる備え
▼防災士を目指して気づいた「備えるべきは、仕組みと気づき」
▶【初心者向け】はじめに備えたい!防災グッズ5選+選び方のコツ
🧰 いざという時に備えるおすすめ防災グッズ
▼楽天ROOMでまとめています
👉(https://room.rakuten.co.jp/room_df03814335/collections)